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IPsecとは?AH・ESP・IKEの仕組みをやさしく解説

友達に手紙を送るとき、そのまま送ると誰でも読めてしまいますし、途中で中身を書き換えられても気づけません。そこで「鍵のかかる封筒に入れる」「差出人と受取人が本人かどうかを合言葉で確認する」という工夫をすれば、盗み見や改ざんを防げます。IPsec(アイピーセック)は、これをインターネットの通信で行う仕組みです。参考書の説明はどうしても専門用語だらけになりがちなので、この記事では身近な例からイメージできるところを土台にして解説します。

目次

IPsecとは何か

IPsec(Security Architecture for Internet Protocol)は、IPパケット(インターネット上でデータを運ぶ最小単位の荷物)を「暗号化」「改ざん検知」「なりすまし防止」の3つの仕組みで守るための、プロトコル(通信の約束事)の集まりです。1つの技術の名前ではなく、複数の技術をまとめたセットだと覚えてください。会社の本社と支店を安全につなぐVPN(仮想専用線)で特によく使われています。

なぜ必要なのか

普通のインターネット通信(素のIP通信)は、荷物を宛名だけ書いてダンボールに入れずそのまま送るようなものです。中身は誰でものぞけますし(盗聴)、途中で誰かが中身をすり替えても受け取った人にはわかりません(改ざん)。さらに、差出人の名前を偽ることもできてしまいます(なりすまし)。IPsecは、この3つの弱点をまとめて解決するために作られました。

全体像:IPsecは「鍵の相談」と「実際の保護」の二段構え

IPsecは大きく分けて2つの作業でできています。1つ目は「どんな鍵と方法を使うか事前に相談する」作業(IKE)、2つ目は「その鍵を使って実際にデータを守る」作業(AH・ESP)です。友達と交換日記をする前に、まず「暗号の解き方」を2人で決めておき(IKE)、それから実際に暗号文を書いて送り合う(AH・ESP)、とイメージするとわかりやすいです。下の図は、本社と支店をIPsecでつなぐ場合を例に、この流れを表したものです。

HOW IPSEC WORKSIPsecで安全な通信ができるまでの流れ1鍵の相談(IKEフェーズ1)通信相手が本物か確認する例:本社と支店のルーターが、事前に共有した鍵や証明書でお互いを確認する2約束事を決定(IKEフェーズ2)暗号方式と鍵を確定する例:「AESで暗号化する」「この鍵を使う」という約束を交わす3AH/ESPで保護データを暗号化・認証する例:支店へ送る売上データをESPで暗号化して送信する4安全に通信盗聴・改ざんを防いで届く例:支店側で受信したデータを復号し、内容が正しいことを確認するIKEで鍵の約束を決め、AH/ESPでそのカギを使って通信を守る、という二段構え

IKE(Internet Key Exchange)には歴史的にフェーズ1・フェーズ2という2段階があります(IKEv1の場合の呼び方で、IKEv2では「IKE SA」「Child SA」と呼び方が変わります)。

  • フェーズ1:通信相手が本物かどうかを確認し、この後の相談自体を暗号化するための土台(ISAKMP SA)を作る。
  • フェーズ2:実際にデータを守るための鍵と暗号方式(IPsec SA)を決定する。

この鍵交換のやり取りには、UDPの500番ポートが使われます。相手がNAT(家庭用ルーターなどでIPアドレスを変換する仕組み)の内側にいる場合は、UDPの4500番ポートに切り替わります(NATトラバーサル、NAT-T)。この「500番」「4500番」という数字はよく登場するので覚えておくと役立ちます。

AHとESPの違い

鍵の相談が終わったら、実際にデータを守る番です。ここで使われるのがAH(Authentication Header)とESP(Encapsulating Security Payload)という2つのプロトコルです。この2つの違いはよく混同されるポイントです。

AH(認証ヘッダー)ESP(暗号化ペイロード)
できること改ざん検知・なりすまし防止(認証のみ)暗号化+改ざん検知・なりすまし防止
データの暗号化しない(中身は丸見え)する(中身を暗号化して隠す)
IPプロトコル番号5150
現在の主流ほぼ使われないほぼこちらが標準

「AHは封筒に封をして『開けていません』のサインだけをする(中身は透明な封筒)、ESPは封筒自体を不透明にして中身を見えなくする」とイメージすると区別しやすいです。「AHは暗号化しない」という点は特に押さえておきたいポイントです。

トランスポートモードとトンネルモードの違い

AH・ESPには、パケットの守り方に「トランスポートモード」と「トンネルモード」という2つの方式があります。下の図は、それぞれのモードで実際にどんな場面が想定されるかの例つきで整理したものです。

TRANSPORT vs TUNNEL2つの通信モードでパケットの中身はこう変わる元のパケット元のIPヘッダー送信元/宛先データ本体① トランスポートモード元のIPヘッダー宛先が見えるESP/AH認証・暗号の印データ(暗号化)例:同じ社内LAN上のPC-AとPC-Bが直接、暗号化した通信を行う② トンネルモード新しいIPヘッダー拠点の代表アドレスESP/AH認証・暗号の印元のIPヘッダー隠されるデータ(暗号化)例:本社ルーターと支店ルーターの間をVPNでつなぎ、拠点間の通信をまとめて守る
  • トランスポートモード:元のIPヘッダー(宛先情報)はそのまま残し、データ部分だけを守る。同じネットワーク内のPC同士で使うことが多い。
  • トンネルモード:元のパケット全体(IPヘッダーごと)を新しいIPヘッダーで包み込んで隠す。拠点間VPNのように、間に別のネットワークを挟む場合に使う。

宅配便に例えると、トランスポートモードは「中身の商品だけを緩衝材で包む」、トンネルモードは「商品が入った箱ごと、宛名を書き換えた別の箱に入れ直す」イメージです。元の宛先を隠したいかどうかが、モードを選ぶ分かれ目になります。

SA(セキュリティアソシエーション)とは

SA(Security Association)とは、「この通信では、この暗号方式・この鍵・この認証方法を使う」という約束事の組み合わせ、いわば2人だけのルールブックです。IPsecの通信では、送信用と受信用で別々のSAが必要になるため、双方向の通信には最低でも2本のSAが作られます。フェーズ1で作るISAKMP SA(相談用のルールブック)と、フェーズ2で作るIPsec SA(実際のデータ保護用のルールブック)は別物である点も、混同しやすいので注意しておきたい点です。

押さえておきたいポイント

  • AHは暗号化を行わない(認証・改ざん検知のみ)。「AHで暗号化される」という記述は誤り。
  • ESPは暗号化と認証の両方に対応し、現在のIPsec実装の主流。
  • IKEの鍵交換にはUDP 500番、NAT環境ではUDP 4500番(NAT-T)が使われる。
  • ESPのIPプロトコル番号は50、AHのIPプロトコル番号は51。
  • IPsecはOSI参照モデルのネットワーク層(第3層)で動作するため、アプリケーションを改修しなくても通信全体を保護できる(この点がTLS/SSLとの大きな違い)。
  • トンネルモードは拠点間VPN、トランスポートモードはホスト間の直接通信で使われることが多い。

まとめ

IPsecは「IKEで鍵と約束事を決め、AHまたはESPでその約束に沿って実際のデータを守る」という二段構えの仕組みです。AHは認証のみ・ESPは暗号化も可能という違い、トランスポートモードとトンネルモードでどこまでを守るかという違いを押さえておけば、参考書の説明もぐっと理解しやすくなるはずです。

参考文献

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この記事を書いた人

サイバーセキュリティについて勉強しながら、学んだことをこのブログでアウトプットしています。「専門用語が多くて難しそう」と感じていた自分だからこそ分かる目線で、サイバーセキュリティをできるだけやさしい言葉で発信していきます。

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